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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)687号 判決 1950年6月26日

被告人

小椋助六

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役八月及び罰金千円に処する。

右罰金を完納し得ない場合には、金五拾円を壱日の割合で換算した期間、被告人を労役場に留置する。

原審に於て生じた訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

弁護人梅田林平の控訴趣意第二点について。

本件訴訟記録によれば、所論起訴状と訴因及び罰条の追加請求書に夫々論旨摘録の通り記載されて居ることは洵に所論の如くであるけれども、右訴因及び罰条の追加請求書に記載されて居る贓物たる自転車が、右起訴状記載の盗品たる自転車に該当することは、該訴因及び罰条の追加請求書中に、右起訴状に記載された事項に関し訴因及び罰条の追加を請求する旨竝被告人が起訴状記載の窃盗を犯したものでないとすれば、同窃盗の訴因に右訴因及び罰条の追加請求書記載の贓物運搬の訴因を追加する旨記載されて居ることに徴し、之を窺知し得るに十分である。従て右起訴状と訴因及び罰条の追加請求書に夫々記載されて居る所論犯罪の客体は同一であり、然かも、窃盗罪と贓物とは孰れも他人の所有に係る財物の領得に関する犯罪であつて、互に密接な関係があるので右起訴状と訴因及び罰条の追加請求書に夫々記載されて居る訴因は、所論犯罪の時、犯罪の場所竝犯罪の方法に於て相違するところがあるけれども、其の間基本的事実に付いては何等異るところがないから、右訴因及び罰条の追加は公訴事実の同一性を何等害しない限度に於て為されたものと謂うべく、原審も亦之と同一見解の下に右訴因及び罰条の追加を許し、以て其の範囲内に於て被告人を処断したものであるから、原審の訴訟手続には所論のような違法の廉がなく、本論旨も亦其の理由がない。

(弁護人梅田林平の控訴趣意第二点)

訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼしている。

原判決は本件につき昭和二十五年一月三十日附検察官事務取扱副検事黒柳貫一提出に係る訴因罰条の追加は昭和二十四年十一月十六日附起訴状記載の公訴事実とはその同一性を異にしこれを害するにも拘らず右訴因罰条の追加を許し被告人を贓物運搬罪を以つて処断した違法がある即ち本件記録中の昭和二十四年十一月十六日附起訴状による公訴事実は「被告人は昭和二十四年十月三十一日頃揖斐郡池田村六ノ井五十川峯治郞方に於て同人所有の自転車一台及び玄米二俵を窃取したものである」とあり昭和二十五年一月三十日附訴因罰条の追加請求書によれば「被告人は昭和二十四年十一月一日頃大垣市藤江町附近において氏名不詳の者より贓品であることの情を知りながら自転車一台を受取りこれを同日頃大垣市藤江町西本義雄方迄運搬し依つて贓物を運搬したものである」とあつてこの二つの訴因の間には、(一)犯罪の時、(二)犯罪の場所、(三)犯罪の方法(四)犯罪の客体において相容れない乃至は著るしい相違点があつて事実の同一性を欠いていることは論議の余地がないのみならず窃盗罪と贓物運搬罪とは犯罪の構成要件該当性を異にし両者間には事実を融合せしむる余地がないのである。

(註 本件は適用法令の誤りにつき破棄)

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